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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)26号 判決

上告人

中野直太

代理人

浦田仙造

被上告人

古川吉三郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人浦田仙造の上告理由について。

上告人は、昭和三八年五月初、小学校の旧校舎の払下げを受けて密柑撰果場を新築しようと企図し、訴外落合にこれを請け負わせて工事にとりかからせたが、早生密柑の出荷が始つたために工事を急がせすぎ、農地である敷地について転用許可手続をせず、かつ、知事宛の建築確認申請手続をとらずに工事に着工させたために、唐津土木出張所から即時工事を中止すべきことを命ぜられるとともに、右各申請手続をし、同時に建物の補強工作を完備するよう強く勧告された旨、しかして、上告人らはこの指示に基づいて右各申請手続を了し、補強工事をすることにしたうえで工事を続行する段取りとなつたが、上告人は、密柑の収獲期がおし迫つた折から、右落合に、前記の補強工作を全然させることなく、また、所定の中間検査をも受けないままで瓦葺作業に取り掛らせたため、西側屋根上に積み上げられた瓦約二、〇〇〇枚の重みで右建築中の建物が倒壊するに至つた旨の原審の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして肯認することができる。右事実関係のもとにおいては、上告人としては、少なくとも右建築中止命令以後においては、倒壊、損害防止上相当の補強工作をすべきことを十分認識していたものというべきであるから、補強工事をせずしてかかる作業を命ずることのないよう、また、もし右請負人において補強工作を施行せずして右工事を続行する場合には、時期を失せず工事を中止させる等の措置を執るべき注意義務があるものというべきである。しかるに、これらの措置を講じないで敢えて右工事の続行を黙過した上告人は、注文者として注文または指図について過失があつたものといわなければならない。したがつて、これと同旨の見解に立ち、上告人に対し民法七一六条但書の注文者の責任を肯定した原審の判断は相当であり、原判決に所論の違法はない。所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断ないしは事実の認定を非難するに帰し、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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